旭ヶ岡の家 高齢者人権憲章

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旭ヶ岡の家 高齢者人権憲章

1998(平成10)年、9月15日(敬老の日)、旭ヶ岡の家はケアの理念を宣言し、高齢者の人権を顕揚する「高齢者人権憲章」を発布しました。 この憲章は、フィリップ・グロード理事長を委員長に、旭ヶ岡の家の入居者・利用者の代表、理事会の代表、職員の代表、オンブズマンの代表、家族会の代表、後援会の代表からなる制定委員会を組織して、約3ヶ月間の話し合いの末にまとめ上げたものです。 それはまた、翌1999年に国際高齢者年を迎える私たちなりの準備でもありました。

この憲章は、私たちがこれまで導きの糸としてきたケアの理念をまとめたものであると同時に、これからもそれを忘れずにケアを進め ていこうとする目標でもあります。

旭ヶ岡の家高齢者人権憲章は、法人の情報公開ページからPDF(閲覧のためにはアクロバットリーダーが必要です)形式のファイルで も公開しております。

 

老年期は人生最高のバカンス
――旭ヶ岡の家・高齢者人権憲章――

1.老年期を讃えて

老年期は人生の斜陽ではなく、黄金の夕焼けです。円満さ、智慧、思慮深さにあふれたお年寄りのたたずまいは、凪いだ大海に照り映える夕映えの美しさを思わせます。旭ヶ岡の家はいつもお年寄りのそばにあって、長寿がいのちの輝きの希求であり、生涯かわるこ とのない人間の尊厳が証しされる道程であることを謳いつづけます。

2.お年寄りの人権の土台はこころの神秘にあります

長年の勤労とその存在とで社会に尽くしてきたお年寄りは、年齢を重ねるにしたがって身心の機能が弱まったとしても、人生の先輩として丁重なもてなしを受ける権利があります。悠久の時間を湛えた文化遺産がその風格をもって人を惹きつけずにおかないように、 その姿に長い人生を刻みこんだお年寄りもまた、私たちに自然に尊敬の念を起こさせます。
社会的生産性にかかわりなく、老年期において、こころはいよいよ充実し、美しい稔りの時を迎えます。だれのこころにもある、あらゆる打算や合理性を超えたそんな神秘に、人権の土台があるのです。

私たちは、
(1)身心の障害のあるなしにかかわらず、お年寄りを敬い、
(2)こころのこもった丁寧な態度と言葉遣いを心がけます。

3.お年寄りの個性はかけがえのない宝です

人はだれでも個性的です。とりわけお年寄りは、豊かな経験、喜怒哀楽で彩られた深い個性をもっています。それぞれの、人種、境遇、性別、文化的・地理的・宗教的背景、職業、生きてきた道のり、それらはみんな独特で、それとともにつちかわれた個性もまたかけがえのないものです。この世に唯一無二のそれぞれの個性こそ、いのちの輝きにほかなりません。

私たちは、
(1)お年寄りの個性を受けとめ、理解し、かけがえないものとして尊重し、男性としての、あるいは女性としての自己を表現し実現できるようお手伝いし
(2)信仰・思想の自由をけっして侵さず、また信仰・思想によって差別することなく、
(3)それぞれ異なる個性同士が、互いに調和のなかで共存できる環境を整えるよう努めます。

4.お年寄りは大切な社会の一員です

お年寄りは、社会の一員であり文化の担い手です。社会・文化に自由に触れ、創造し、自発的にみずからの生を豊かにする機会を充分にもつことができなければなりません。社会のなかにみずからの存在がしっかり位置していることを感じるお年寄りは、けっしてその内面的自発性、自由を失うことがありません。エレガントで、ユーモアにあふれ、ヒューマニズムいっぱいの環境で生活するお年寄りは、老化やそれにともなう病気、障害にもかかわらず、笑顔を失うことがありません。

私たちは、
(1)一般社会の情報をできるかぎり届け、一般社会に参加し続ける機会と便宜を豊富に提供し、
(2)エレガンスをたもつためのお手伝いを怠らず、明るく愉快な人々の輪で包み、
(3)障害があっても、適切な介助用具と快適な住環境の整備に努めます。

5.お年寄りのケアは家族と社会の連帯で育みます

本格的な高齢社会になる21 世紀はケアの時代、いいかえれば、地域に根をはり、お年寄りのニーズに的確に応える専門的なケアのスタッフの存在が重要な意味をもつ時代です。身心に障害をもつお年寄りにたいして家族の介護力には限界があり、長い年月にわたる介護には、家族のあたたかい絶えざるこころの支えと、専門性の高いケアスタッフの支援が必要です。21 世紀の親孝行は、家族と良心的なケアスタッフとの強い連携から生まれるものにほかなりません。

私たちは、
(1)家族のご意見に耳を傾ける謙虚さをもち、
(2)お年寄りと家族との絆を大切にし、家族とともにケアを進めていきます。

6.お年寄りこそケアの主人公です

必要なケアを受けることは当然の人権です。他人の善意で提供される「ほどこし」でもないし、若い頃に社会的義務を果たしたことへの応報なのでもありません。人権の基礎は人間の不思議な精神性、こころの神秘にあるからです。だれもが人間らしく生涯をまっとうできるよう、どんな差別・区別もなく、兄弟あるいは隣人として、また人生の先輩への尊敬をもって尽くすのが人間性の哲学です。ケアを受けることが人権のひとつであるなら介護する者と介護される者とは、そこに礼節と謙譲の気持ちがともなうことはあっても、立場として対等です。だれもがみずからの人生の主人公であるように、病気や障害の有無にかかわらず、みずからの生活をその細部にいたるまで自己決定するのが当然です。

私たちは、
(1)「ケアしてあげている」または「ケアしてもらっている」という高慢さや卑屈さを戒め、
(2)ケア、治療などに関する情報を共有し、
(3)ケアや治療、生活環境を選ぶ最終的な決定権は利用者本人にあることを認め、とりわけ人生の終末をどこでどのように迎えるかについての自己決定を支え、尊重しあい、
(4)ケアや治療、生活環境に関する要望や苦情を率直に申し立てられる体制を整え、
(5)厳格な取り決めや契約を整備してお年寄りの所有物などの管理を適切におこない、
(6)ひとり一人の日常生活や個人情報などプライバシーを不当に侵すことのないよう努めます。

7.お年寄りの笑顔は文化のバロメーターです

老年期は人生の他の時期、つまり少年期や成年期と異なる特別な時期でしょうか。老年期は他の時期と同じ人生の一部であり、人権の観点からは一般の成人が有する普通の権利をお年寄りもまた有しています。しかし、老年期が人生の総まとめをする大切な時期であり、とりわけ老化現象と身心の障害のため他人に依存しなければ生活することのできないお年寄りに社会が特別な配慮を払う必要があるという意味では老年期は特別な時期です。
だれもがいつかは直面する老化は自然現象であり、それにともなう病気や障害は、けっしてその人間性・人格をそこなうものではありません。むしろ年齢が増すにつれて、よりいっそう深みをおび、価値あるものとなってきます。老化やそれにともなう病気、障害を理由にした差別や排除など、人権じゅうりんは、まったくいわれのないもので、社会の未熟さを示す恥ずべきものです。社会の高齢化とお年寄りへの手厚いおもてなしは、社会・文化の発展のバロメーターです。お年寄りの笑顔の多さが、文化の高さを示しています。

私たちは、
(1)社会にあるお年寄りへの差別や排除など、人権じゅうりんに警鐘を鳴らし、
(2)老化現象やそれにともなう病気、障害への科学的認識を深め、よりよき生を支えられるよう研鑽し、
(3)日々の笑顔を求める努力をたゆまず重ねます。

ケアは文化的なおつきあいです。ともに踊り、ともに歌い、ともに泣き、ともに笑い、ともに愛し、ともに生きること。

老年期は人生の斜陽ではなく、黄金の夕焼けです。


 

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